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会派行政視察~太田市(2)~

大田市での視察事項の2つ目は、デマンドバス事業である。

市内には、平成21年度まで11路線35系統の市営路線バスが走っていた。しかし、毎年1万人近い利用者の減少があり、市民からの批判があったため、平成22年度から2路線4系統まで縮減し、その財源で福祉的な利用者に限定したデマンド方式の「おうかがい市バス」を開始した。

当初はスクールバス事業も統合し、ドアtoドア方式で利用料無料としたが、一般旅客運送事業者、福祉優勝運送事業者から客を奪われたとの批判が相次ぎ、また、利用登録者の急増によりニーズにこたえきれない状況に陥った。特に、市外の医療機関への送迎も批判の対象となった。

そこで、平成23年度は、スクールバス運行を教育委員会に戻し、台数も6台(10人乗りワンボックスカー)に縮減するとともに、市外への送迎を廃止、最寄りの駅までの送迎へと変更した。

平成24年度からは、国の緊急雇用創出基金の助成が切れることから、利用料を徴収するとともに、総事業費を抑制するために、市内の医療機関、大型店舗、公共施設等622か所を「停留所」に指定し、これまでのドアtoドア方式から停留所間を運行する方式に改めた。と同時に、直営方式から、旅客運送事業者への運行委託方式とした。

登録者の条件も当初の、「75歳以上の方、障害認定を受けている方、市長が特別に認める方で自力でバスに乗降できる方」から、平成24年度以降は「65歳以上の方、市長が特別に認める方で自力で乗降できる方」へと変遷した。 運行時間も平日の午前7時から午後4時までに変更し、利用料も片道100円と改めた。

平成24年度の実績を見ると、利用登録者2,362名、年間利用者数延20,582名で、うち女性が16,000人強と圧倒的に女性が多い。1日平均で84人が利用している結果となっており、また、実利用者は775人と、登録者の32.8%が利用している結果となっている。

目的地別にみると、医療機関等が圧倒的に多く、7,600人強、続いて、公共施設、大型店舗が2,000人強となっており、高齢者の日常生活を色濃く反映している。

さて、デマンドバスは利用者減による路線バスの路線廃止が相次いだことによる、交通弱者である高齢者や障害者の移動手段の確保という課題を解決するために生まれたサービスである。

その一方で、一般事業者への圧迫、すなわち民業圧迫という批判を回避しなければならないという宿命的な課題がある。公共交通機関も利用者がなければ営業が成り立たず、いきおい廃止という方向に向かわざるを得ない。特に、自家用車による移動が生活上必要不可欠の社会では、公共交通機関の利用は次第に低下する。路線が廃止されれば、自動車を運転しない高齢者等は移動手段を奪われる。こうした事態を避けるために、赤字バス路線に対する補助により何とか廃止を食い止めようとしているが、すでに限界にきている。

高齢化が加速し、なおかつ景気低迷にあえぐ地方社会では、一番問題となるのは、医療機関での受診と食料品などの日用品の買い物である。遠くの医療機関にかからなければならないとすると、移動手段が問題となる。また、買い物も遠くまで行かなければならないとすると、同じ問題が発生する。しかもこちらは大量に買い込むことは荷物の運搬の点から現実大変な困難が付きまとうが、身近な店舗は郊外の大型店舗に押されて閉店が相次いでいる。

しかし、デマンドバスがすべてを解決するとは考えにくい。太田市が「自力でバスに乗降できること」を利用条件に挙げているように、介助が必要な者は個人的にタクシーを頼むほかない。しかも「デマンド=要望、必要」であり、要望は右肩上がりに拡大することが常であることから、経費増への歯止めが常に問題となる。

こうした高齢化という社会構造の劇的変化に対応する一つの考え方は、これまでの生活様式や社会の在り方を時代に適応するものへとまさに転換することである。コンパクトシティ、すなわち歩いて暮らせるまちづくり、がそのひとつだ。

歩いて行ける範囲に、医療機関や行政機関、日用品を販売する店舗などの社会資源が整備され、利用されることにより、最低限の日常生活が成立すること。いわゆる医療難民、買い物難民の発生を防ぐことがまず必要である。

そのためには、かかりつけ医を持つこと、日常必要な買い物は地元商店で済ませること、こうした生活様式に変えていくことが必要である。「利用」によって、こうした医院、商店を支えていく、いわば育てていくという発想に転換していかなければならない。

高齢化社会に適切に対応していくためには、日常生活という基軸をいかに支えていくかという視点から総合的な対策を考えていくべきであり、単に交通機関の確保という局地的な対策だけでは課題解決は難しい。これが大田市のデマンドバスを学んだ素直な実感である。
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