昨年末の税制改正で決着した軽減税率については、現在開会中の国会に関連法案が提出され、来年4月の消費税10%への引き上げと同時に制度がスタートする予定である。
その決定に至るまで紆余曲折があったが、酒類、外食を除く食料品全般及び週2回以上刊行の新聞について、8%の税額に据え置くものである。公明党が一貫して議論をリードしてきたことは特筆すべき事実である。
そもそもこの軽減税率は、消費税引き上げに伴う主に低所得者層を中心とする痛税感を緩和し、消費の冷え込みを抑えようとする狙いがある。所得の低い階層ほど家計に占める食費の割合が高いことは民間の統計で明らかになっている。
すなわち、年収1500万円の家庭では食費の家計に占める割合が約15%であるのに対し、年収200万円以下の世帯では約30%となっており、食費のウェイトを抑えることは低所得者にとって大きなメリットがある。
だからこそ、食料品全般に対する軽減税率適用は極めて大きな効果が期待できる低所得者対策であり、現場からの声を受けた公明党が一貫して主張してきたことは正しい選択だった。
一方、野党民主党は最近になって、軽減税率は所得の高い階層に有利であり、しかも制度適用による減収見込み額約1兆円をどう手当てするのか不明であるとして、軽減税率をやめて給付付き税額控除を導入すべきだと主張し始めた。
もし軽減税率を強行する場合は消費税引き上げに反対するとも言い始めた。しかし、こうした主張はその努力も空しくことごとく論破されている。
彼らが高所得者に有利とする根拠は、高所得者の方がモノを多く買うから、モノをあまり買わない(買えない)低所得者より「軽減額」が多くなるため、高所得者を優遇してけしからん、ということである。
無理やりこじつけた難癖の類であるが、高所得者は所得税等で低所得者よりも重い負担をしており、税負担全体からはバランスがとれていること、また前述のとおり低所得者の方が家計に占める食費の割合が大きく、その食費の税負担を抑えることは大きなメリットがあるを指摘すれば足りる。
また一方で、軽減税率による減収分1兆円が安定財源として現時点で別途確保されていないのに制度を実施するとはけしからん、と言っている。これと社会保障経費をからめて、社会保障経費が1兆円分削減されるというデマが飛び交っている。
ちょっと待てよ、である。この1兆円は現状の税収が1兆円減るということではない。来年消費税が8%から10%引き上げられることに伴い、本来ならば現状から約5.5兆円消費税が増収されるところを、軽減税率適用により4.5兆円の増収にとどまるということである。
1兆円見込み減があるにしても増収は増収であるため、彼らの難癖も根拠を失う。税は消費税だけではない。所得税はじめ様々な税目がある。税全体で1兆円をカバーするということだ。実に単純な話だ。
民主党の主張する「給付付き税額控除」も低所得者対策として、選択肢の一つである。だが、以下の理由で現時点では到底採用できない。
第一に、サラリーマン以外で例えば自営業者等について「正確な所得の把握」が困難であるという点である。いわゆるマイナンバー制度が定着すればこうした所得の把握も容易となろうが、いつになるか分からず、当然来年の消費税引き上げには間に合わない。
第二に、税額控除ないし現金給付を受けるためには税務署への申請行為が必要になるが、低所得世帯は高齢者に多く、しかも高齢単独世帯が増加していることを鑑みると、こうした方々に申請行為を求めるのはあまりにも過重な負担を強いることととなる。
その結果、申請しない世帯が増加し、また一方申請を処理する国税当局サイドもかって民主党政権時代の当時の財務大臣答弁にあるように、人的体制の限界から申請への対応困難が予想される。
この給付付き税額控除制度よりも、買い物したその都度負担の軽減が図られる軽減税率制度の方がはるかに優れた政策であることはもはや論を俟たないところである。
給付付き税額控除を採用しない限り消費税引き上げには応じないという態度は、そもそも税と社会保障制度の一体改革に関する「3党合意」を踏みにじる主張であり、その主唱政党であった当時の政権政党民主党の自爆行為に等しい。再考を促したい。