10月11日~13日に甲府市議会総務委員会の行政視察が行われた。今回は兵庫県内の3市の調査である。
初日の11日は明石市の「トリプルスリー」の取り組みである。
明石市の掲げる「トリプルスリー」とは、①人口30万人、②年間出生数3,000人、③図書貸し出し数年間300万冊、を目指し、その実現に向けた施策を強力に推進するというものである。
現在、どの自治体も、国のまち・ひと・しごと創生戦略を受け、人口ビジョンとこれを踏まえた地方版総合戦略を策定している。
国全体が人口減少局面を迎え、しかも人口分布が大都市、特に東京一極に集中するといういびつな構造のもとで、一昨年の「増田レポート」が消滅可能都市を名指しで公表したことは、地方の活性化を実現しなければ日本が衰退していくという強い危機感を呼び覚ました。
しかしながら、大多数の自治体が人口減少を前提としてどこまで食い止めるか、という視点から総合戦略を構築しているところを、明石市は「人口増加」を目標に掲げた総合戦略を打ち立て、その中心的な取り組みがトリプルスリーである。その牽引力は何と言っても泉市長だろう。
現在関西圏域で唯一の人口Ⅴ字回復を実現しているが、その要因は、子育て世代やサラリーマン世帯をターゲットにしたインセンティブのある施策を打ち、その層が反応して、市外から明石市に引っ越して子ども産み育てる流れが定着している。
その施策のポイントは「子どもを核としたまちづくり」にある。これが若い世代に明石市が選び取られる大きな理由だろうとされている。
具体的には、中学生までの子どもの医療費の完全無料化、第2子以降の保育料の完全無料化、保育所入所枠の1000人拡大、小学校1年生の30人学級の実現など、所得もそれほど多くない若年層で必然的に共稼ぎ世帯が多く子どもを多く産み育てたくても経済的、社会的理由からあきらめがちな層に対して、大きなインセンティブを与えることにより、明石市への移住を誘引している。
人口増を目指すと言っても、出生数を増やすだけでは到底30万人という目標達成はおぼつかないため、市外からの転入、いわゆる社会増も当然カウントされている。両者がうまくかみ合えば、人口増の目標達成もより実現に近づくと思われる。
明石市が打ち出した施策は、関西圏域では初めての施策が多く、いってみれば競争相手がまだいない状態だったから、これまでのデフレ経済状況のもとでは子育て世代に響いたものと言えなくはない。
しかし、泉市長が直接説明してくれ、その情熱の一端を垣間見た時、明石市のⅤ字回復もトップの強い意志とリーダーシップの賜物と強く感じた。
こうした施策を実行するうえで必ずたちはだかるのが、財政の壁である。現実問題として財源をどこからか調達しなくてはならない。明石市では、市長以下職員の給与の削減という率先して身を切る改革を断行し、あらゆる分野での予算の在り方の見直しを実行した。
当然反発は生まれる。しかしながら、自らを律しなおかつ社会の持続可能性を実現するうえで、子どもという具体的な「人」に焦点をあてることにより、多くの市民の共感を呼び覚ましたことは、そこにまちづくりの真髄をみる。
出生率の目標も2030年までに国の目標値を上回る2.07という高い目標を掲げているが、あながち不可能ではないように思える。この市長のもとでなら、という条件付きであるが。
図書貸し出し数が現況の220万冊から300万冊という目標達成に向けて、現在明石駅前に再開発ビルを整備中でこれが完成すると蔵書数100万冊の大型書店がオープンし、図書館のネットワークと併せて日本一の「本のビル」が生まれる。
こうした「人と文化」に焦点を当て、なおかつ具体的な目標を掲げて具体的な施策を展開するというきわめて分かりやすいメッセージとなっていることは、大いに参考とすべき手法だと思う。
総合戦略や総合計画が抽象的なスローガンで当り障りのない「総花的」なものに陥りやすいのに対して、何を目指すかというより具体性を持たせた施策の展開は、まちづくりに当事者としての意識を持たせるうえでも極めて重要である。
と同時に、自分たちのまちを自分たちの頭で考えてデザインしていくという独自性も重要な要因になることがはっきりと感じられ、これまでの自分自身の考えが明石市の実例を通してあながち方向性も間違っていないことに意を強くしたところである。
明石市の資料