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児童見守りボランティアの活動に携わるとき、いつも胸に刻んでいる言葉がある。忘れえぬ言葉といっていいその言葉は「あいさつをしよう そして 安全安心まちづくりをしよう」である。

平成16年に山梨県庁の県民生活課(当時)に配属されて、当時全国的に拡がっていた「安全安心まちづくり条例」の制定に向けた検討作業の途上で出会った、確か千葉県の安全安心まちづくりの外部検討委員会の報告書の締めくくりの言葉だったと記憶している。

平成14年に犯罪認知件数が戦後ピークを迎え、治安がこれまで最悪とまで言われるほどに悪化し、政府をあげて対策に乗り出したころである。

それまでひったくり全国ワーストワンの不名誉な記録を毎年更新していた大阪府で「防犯まちづくり」の取り組みが行われ、これが国のモデル的な事業として取り上げられて以降、犯罪者を寄せ付けないような「スキのないまち」づくりが各地で取り組まれるようになった。

これは有名な「割れ窓理論」に象徴されるように、住んでいるまちへの関心が薄れていく事によって犯罪者に付け込まれるスキが生まれる、という考えが底流にあり、住民相互が最低限の関心を寄せあう、いわばコミュニティの再生という文脈でも取り上げられた。

県民生活課でこうしたまちづくりを最終的に条例化という目標を掲げて仕組みづくりをせよ、という当時の県庁の仕事の中で前例のないミッションを与えられ、先進自治体の報告書や条例を読み漁っていたことが昨日のことのように思い出される。

この途上で出会ったのが前述の報告書であり、あいさつを励行することによって究極的に犯罪者が近づかないようなまちの雰囲気が生まれる、というごくシンプルなメッセージに新鮮な驚きを覚えた。

平成8年ごろから地域活動に携わり、地域の実情をずっと見てきた経験から、地域活動の衰退がこうした犯罪の多発等につながっているのではないか、という漠然とした感触を持っていたが、この報告書に出会ったことによって、はっきりと人間関係の希薄化とその帰結である地域活動の弱体化が身近な犯罪を誘発する一因となっていることを確信した。

しかし、当時はまちづくりが何故犯罪防止につながるのか、理解がなかなかされなかった。犯罪に関することは警察の仕事であり、行政の中枢である知事部局で所管する仕事ではないという無理解が県庁にはびこっていた。

犯罪者を捕まえてその生い立ちや育った環境要因を犯罪の原因ととらえ、その改善によって犯罪が減るという「犯罪原因論」に対するアンチ命題として「犯罪機会論」が次第に有力になってきたことも、まちづくりによって「犯罪を抑止」する思想が主流となってきた大きな要因とされた。

確かに警察力の強化も必要ではあるが、当然限界があるうえ、例えば犯罪者に気をつけよといっても、誰が犯罪を起こすかはあらかじめ分からない。対策の取りようがないのである。

だからこそ、犯罪を企もうとする者に犯罪をあきらめさせる安全安心まちづくり、特に住民の日常的な取り組みであるまちづくりが注目を浴びたのである。

あいさつが活発な地域、「何かお困りですか?」という声かけが日常的に行われる地域、またゴミの不法投棄や落書きを放置しない地域、こうした地域はよこしまな考えを持った者にとってはまことに「仕事」がやりずらいと考え、この地域で犯罪を起こすのはやめておこう、という「犯罪抑止」に大きな力を発揮する。

当時上司や幹部に対するレクでは、住民相互がお互いに関心を持ち合うスキのない地域では、犯罪者も勝手に犯罪をあきらめてよそへ行く、こうした地域をつくっていくのが安全安心まちづくりです、といった内容を繰り返し説明してきた。

その象徴が冒頭の「あいさつをしよう そして安全安心まちづくりをしよう」というフレーズである。

3か月で外部検討委員会の報告書まで仕上げ、3か月で条例原案をつくって関係部局と調整を済ませ、知事まで説明し平成17年2月の県議会に提出、4月施行にこぎつけた。

当時警察本部から人事交流で担当につき、ともに何日も遅くまで残業したF氏には数々の苦労を強いてしまったが、今ではいい思い出となっている。短期間にこれほどの成果をあげたことに当時の厳しかった上司や幹部からも望外のお褒めの言葉をいただいた。

10年以上たった今、子どもたちの見守りボランティアは県全体に大きな広がりを見せ、私も10年前から地元でボランティアの会長に就かせてもらっており、その縁で甲府市の自主防犯ボランティア団体連絡協議会、山梨県の連絡協議会の会長を引き受けさせてもらっている。

全ては「子どもたちのために」であり、また「地域のために」である。この動きをやめてしまえば地域の衰退はもはや止められない、という危機感に半ば突き動かされている感があるが、いつか同じ思いに立つプレーヤーが必ずや出現するだろう、という期待も併せ持っている。

地域では市民が懸命にがんばっている