7月15日 会派視察3日目は燕市の自治体主導の企業連携DX「燕版共用クラウド」を視察した。
燕市は、越後平野の中央に位置し、古くから金属加工のまちとして栄えたものづくりのまちである。カトラリー(金属洋食器)の生産で有名であり、1991年のノーベル賞授与式の晩餐会で採用されて以来今日まで継続して採用されていることや、記憶に新しいところでは、昨年の東京オリンピック・パラリンピック大会の選手村で燕産の「おもてなしカトラリー」が使われ、大人気を博したところである。
職人さんたちの高い技術は、時代の流れによるニーズの変化にも順応し、新たな技術を生み出すなど、そのものづくりの歴史は連綿と伝えられている。度々試練が立ちはだかるが、業界全体でこれを乗り越えてきたという歴史が企業同士の信頼の絆を結び付けているという特有の風土があり、おそらくこれが企業連携のDXの構築を可能にした大きな要因と思われる。
燕版共用クラウドは、これまで紙を使った発注・受注システムをクラウド上で行おうというものであり、近年のDXの進展がその背景にある。導入に至ったきっかけが実に興味深い。中心的企業に実習で来日していたカンボジアの実習生がFAXをみて、「これは何ですか?」という質問を社長に投げかけたそうである、当然社長は驚き、FAXを知らないのかと思いつつ日本の通信機器であることを説明したが、カンボジアではすでに数段デジタル化が進捗し、わざわざ紙を使って送信しなくても直接データのやり取りをすればはるかに効率的であり、何より紙がもったいない、と件の実習生が答えたという。
実習生からみた燕の産業界は、多くの事業所による分業体制(強い連携)が特徴であり、商品開発や生産体制の変更が容易であることや小規模でも専業化による技術進歩が可能であるといったメリットの一方、多くの企業間取引にいちいち文書が必要でその文書のやり取りや管理に膨大なコストがかかっているというデメリットが指摘されたという。
今後ますます少子高齢化、人口減少が進むわが国では必然的に生産年齢人口の大幅な減少が避けられない大きな課題であり、ある識者の指摘によれば、2060年には30人未満の事業所の約半分と20人未満の事業所のすべてで雇用できる人材がいなくなり、その結果200万に上る事業所が消える、というショッキングな未来が到来するといわれている。
こうした事態は中小企業が圧倒的に多くしかも日本のものづくりを支えている技術力をもつ我が国の産業界の危機ともいえるものである。労働力の不足を補うためには、移民政策もあるがより生産性を向上させ、一切の無駄を省く体質改善が一層求められる。
この生産性向上を阻害する要因の一つが紙に依存したコミュニケーションであり、その解決のために考え出されたのが共用クラウドである。
製品一つの製造工程をみても、発注書FAX、その返答FAX、納品書、請求書、受領書とそれぞれの場面で作成、送信、補完、帳簿入力といった膨大な作業が必要となっている。事務員はこれに忙殺され、その手間を省いて別の生産的な業務に従事した方がより収益向上につながるかもしれない。しかし現状では紙が大きく立ちはだかっている。共用クラウドはこれらを一気に解決していく。
もともと企業間の連携が強い燕市であったが、DXを前に進めるためには信頼度といった点から「公」の役割が求められた。そのため、自治体主導の企業連携DXとしてシステム構築に市がバックアップした。こうした場面での公的機関の役割分担は極めて有効であり、成功のカギを握ることはもちろんである。古からものづくりのまちとして協力し合いながら栄えてきた燕市の伝統がスムーズなモデル構築につながったといえるが、現在様子を見ている企業も多数存在するということから、今後その動向を注視していきたい。